あなたが月を指差せば、愚か者はその指を見ている

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コロナウィルスでの外出禁止期間中でも人工妊娠中絶の権利は脅かされてはならないとするフランス政府

それぞれの国には特有の事情があるので、安易にあの国ではこうやってる、この国ではこうしている、なぜ日本ではできないのか?という言いかたを私はあまりしたくありません。

ですけど、世界のさまざまな国々で行なわれている外出禁止、自宅自主隔離や、日本でもたとえば3月の初めから首相の鶴の一声で学校の多くが休校になったときから気になっていたことはあります。たとえば家庭での子どもの虐待問題とか。

 

だいたい年末年始から始まりませんか? 完全に寒くなった頃から。そして早く見つかれば(いい意味じゃないですよ)1月頃に発覚、気がつかれなければ3月頃、年度をまたぐ頃にやっと発見されるとか。なかなか発見されないのも、ちょうど冬は何かと体調を崩しやすい季節なので、それを理由に子どもは園や小学校を休み始める。で、先生方も気になりつつも日々の仕事に追われてしまう、といった調子ではないでしょうか。

目黒の結愛ちゃんの事件が発覚したのは3月。1月からずっと食べさせてもらえなくて、2月には冷たい水をぶっかけられて凍傷にまでなって。でも母親もDVを受けててかばう気力がなかったという事件。義父は懲役13年の判決。母親は8年で控訴中。

厳罰にしろと言いたいんじゃないんです。私が言いたいのはただでさえ、周りに気がつかれないうちにことが進んでしまう時期だということです。それに、どだい親を厳罰にすればそれでOKって風潮もなんだかなと思いますよ。殺された子どもは自分の人生とりかえせないのだから。完璧な解決法なんてないのかもしれませんが、それでも事前に防ぐ方法を考えないと。

 

3月に学校が急に休校になった直後、千葉の心愛ちゃんの父親の裁判が行われていました。ずいぶん報道されていましたが、それでもコロナウィルスの自宅生活で、こうしたDVに目が届かなくなるのではないだろうかという文脈で語られることはなかったように思います。 

そんななかで、欧米ではコロナウィルスの外出禁止にともなってDVが増えているのが問題視されているというニュースも耳にするようになりました。

 

もともとフランスはコロナウィルスが蔓延し始めてから早い段階でDVに対する警鐘を鳴らしていました。いわゆる男女平等担当大臣(フランス語での正式名称「首相付女男平等・差別対策担当副大臣」という役職なんですけど)のマルレーヌ・シアッパがすぐに動いてました。

マクロン大統領が外出禁止令を発表したのが3月16日(翌17日正午から実施)ですから、ほぼ同時に「衛生危機によって性差別による暴力、性暴力、夫婦間暴力が悪化する可能性があります」って担当部局が発信していたわけです。

通報・相談専用サイトもこんな感じ。

 

日本の場合はフランスとちがって夫婦間暴力による死亡事件よりも子どもに対する虐待のほうがリスクあるんじゃないかなと私は思うのですが、今のところ、このことを声高に注意喚起する政権を担う与党の政治家はいなさそう。

医療とか検査に関する問題提起はまあどこの国でもやっていることなのでともかくとしまして、あとは10万円一括支給とマスクひどいんじゃね?あたりで想像力止まってますよね。せいぜい、リモート授業は教育の不平等を招かないかという指摘がある程度でしょうか……あれ、これも政権与党政治家の間で問題提起されてましたっけ?

 

でもですね、私の想像力の範囲はせいぜいDVどまりだったわけです。そんななか先日フランスの保健省(正式名称は「連帯・保健省」)のオリヴィエ・ヴェラン大臣と前述のシアッパ大臣ふたりによるこのツイート動画(ツイートそのものは内閣アカウントより)を見て、ああああ、性暴力ときたら(性暴力に限らなくても)そういう問題だってもあるじゃん?って思ったんですよ。

 

 

そう、人工妊娠中絶です。

日本って妊娠中絶は手術のみですが、欧米は服薬中絶もあります。というか、そっちのほうが主流ではないかと。日本で緊急避妊ピルと呼ばれているものとは別もの。49日以内なら中絶が可能というもの。日本ではこれは認可されていませんし、当然自己で勝手に服用するのはとっても危険だという理由で個人輸入でも絶対にやるなってすごく言われてます。だから認可して管理しろよと言いたいけれど、その辺の話は以下の記事のほうがわかりやすいと思いますのでどうぞ。

 

まず、このNHKの記事なら日本の現状がわかりやすくまとまっているように思いました。

www.nhk.or.jp

 

なおこのハートネットの記事よりも1年前になりますが、フランス人記者が見た日本の現状の描かれ方も非常に興味深いです。当然、日本の政策に批判的ですけどね。でも、両国の人工妊娠中絶の歴史がわかりますし、他国の法制化についても述べているので知っておいてもいいと思いますよ。

toyokeizai.net

 

とにかく話は戻って、その内閣アカウントの話。

ともかく人工妊娠中絶はもはや服薬が主流なので要は服薬についてなのですが、

まず保健大臣はその服薬中絶について専門家に問い合わせをし、妊娠後7週間のところ9週間まではリスクないという確認をとったので、2週間伸ばすといういう決断をしたそうです*1

いずれにしても遠隔相談(オンライン相談とか電話相談なんでしょうね)3種類ができるようにしたそうです。つまり

①服用前の遠隔相談 ②服用中の相談 ③服用後2週間~3週間後の相談

になります。なるほど。

 

また男女平等大臣のほうははっきりと、ウィルス対策のせいで女性の自らの意志に基づく人工妊娠中絶が不可能になることがあってはならない、と明言しています。どうしたらいいのだろう、困ったことがあったら家族計画協会が常時スタンバイしているので何でも相談するようにと電話番号を告知しています。

もちろん避妊もしかりです。普段から服用しているピルがなくなっちゃっても、過去の処方箋を持参すれば、医師や助産師による(フランスは助産師がピルの処方箋だせるんでしょうかね)処方箋なしで薬局*2で購入できるようにしたと。

私は以前この本の翻訳に携わりましたけど、そのときにE・バダンテールさんも書いているんですね。10年前になりますが。そこにはフランスは出生率も高めだけど人工妊娠中絶の数も多いという指摘がありました。つまり生むにしても生まないにしても何よりも「女性が決定する権利」を重要視しているということは確かなのではないでしょうか(逆に言えばフランスの場合、生む生まないが決められるようになり、じゃあ生むと決めた以上「後悔した」とはかえって言いにくいという風潮が生まれたという分析もしていましたけどね)。

  

40 ans d'avortement sûr & légal en France - 17 janvier 1975 - 17 janvier 2015

Mon corps, mes choix : avortement libre, gratuit et accessible

フランスで人工妊娠中絶が合法化されたのは1975年1月のこと。先進国では決して早いとはいえなかった。そして合法化されてから今年で45年になるんですね。

2017年にお亡くなりになったこの方のおかげなんです。

simone veil

政治を行なううえで、ほんと想像力って必要なんだなって思いました。自分が気がつかないようなことでも気がつくように、そして自分で理解するように努力すること。それがあまりにも日本では、もはや政治家に限りませんけど、そういう姿勢が欠けているんじゃないかと思いますよ。

 

*1:用語的には月経停止後…なのかな、ちょっと細かいところがわかりませんが、それ自体日本人の私自身性教育をしっかり受けておらず、疎いことの証明になっているのですが。

*2:フランスでは(処方箋)薬局は通常営業です。しかもいまや、外出禁止令でDVを受ける羽目になってしまった女性が薬局に行き、薬剤師に助けを求めるように可能な対策もしているらしい。