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カナダ人にオリンピックを1年延期しろと声明出されてしまった東京五輪

 

Japan Pavilion

 

カナダのオリンピック委員会およびパラリンピック委員会が今年の夏にオリパラが開催されるなら選手を派遣しないと声明を出したことが話題になっています。

olympic.ca

1年先送りにすることをIOCが決定するならその変更に関わる協力はすると言っているようですね(そこまで言うかと)。

ともかくその理由のおそらく基本にあるのは「うちの選手達がベストコンディションで臨めないから行かない」というものなのでしょう。

というのも、カナダは気候的にもこの3月となると、アスリート達が自国で練習するならまず「室内」なわけですよね。さっむいもの。

ところがいまや政府からのお達しでそうしたトレーニング施設は感染の恐れがあるということで「行くな」ということになっている。もし夏に五輪があるのなら、そのお達しに「反して」練習しに行くことになり、そうすると一般の人たちにも感染のリスクを増やしてしまうことになる。こんなときに公共衛生よりもスポーツを優先することはできないのだから、と(というかですね、これ、スポーツを優先できりゃとっくにしてるよって思いなのでしょう)。

つまりまったく日本固有のコロナウィルス蔓延状況についてはこの声明でも挙げられておらず、だからこそ日本側としてはそのカナダ人の言い分に対して反論の余地がないわけです。だって日本のせいだと言われてるわけじゃないんだもの。

カナダ人にとってのオリンピック

これ読みながら、カナダ人らしいなと思いました。カナダにおけるスポーツの重要性は、ある意味で米国よりも、もちろん日本よりもずっと大きいのではないかと思ったからです。あの国ではきっと文化=スポーツといっても過言ではないかと。カナダではというと主語が大きいというならば、少なくともケベック州では……(カナダ人のスポーツ選手やたらと実はフランス風の名前の人多いでしょ?)

だって他に代表する文化といったらシルク・ドゥ・ソレイユ*1?あれも一種のスポーツだしね。

www.afpbb.com

 

カナダ人はああ見えて勝負に拘るというか、オリンピックならメダルにこだわるところがあると思いますよ。選手よりも周りの人たち、つまり国民が。日本でよく五輪がナショナリズムに結びつけられて気持ち悪いって言われますが、これがケベックになると日本で言われるような程度ではないかもしれない。

私は高校生のときにAFSという交換留学団体の交換留学生としてケベック州のある小さな町のある家庭にお世話になって1年ほどホームステイさせてもらったことがあります。当時はその団体、留学生の希望した派遣国に行かせるとは限らないという方針をとっていたため、希望しなくても自分が知らない言語の地域に送られる可能性は3人に1人ぐらいはあったわけです。で、私はその当たりくじを引いた。ケベックって州の公用語はフランス語だから。

今でこそケベックの若い人もずいぶん英語しゃべるようになった気がしますが、1988年夏のあのときはそうじゃありませんでした。で、私ってばフランス語ろくに知らないままいきなりホームステイ&現地の学校に行くことになったわけです。そしたら渡航してすぐさま、ソウルオリンピックが始まりまして……*2

ずっと潜って勝ったとかいうサムライスイマーの存在をカナダ人から教わる

まだまだ全然慣れない学校に行くと、クラスの子達が私に「ナタシオン」について語り出すわけです。たどたどしい英語で「スイミング」と言い換えてくれたりして。日本人が背泳で金メダルを取ったってニュースになってたけど知ってる?とかなんとか。そのサムライ選手ずっと浮き上がってこなくて、というようなことを身振り手振りで教えてくれるわけ。

帰宅後、ホストファミリーに聞いたところによると少なくとも金メダルを取ったのはスズキダイチ*3らしいということは確認しましたが、なんだ、すごい試合だったのなら生中継で見たかったな、と思いましたね。

 

そして忘れられないのが陸上。ベン・ジョンソンよ。

カナダに恩返しするような立場の奴がカナダに泥を塗った

彼が金メダルをとった翌日の体育の授業で確か走らなきゃいけなかったんですけど、体育教師がベン・ジョンソンの手の振り方を見せてくれましたね。彼はこうやって早く走れるというようなことを説明していたのだと思います。

でもね、もっと忘れられないのが、彼がドーピングで失格になったあとのこと。

掌を返したかのようにベン・ジョンソンのことをカナダに恥をかかせたジャマイカ人だって騒がれはじめたの。それはもうボロクソに。家ではホストマザーも。彼が帰国した時のニュースの中継も見たけど、なんだかかわいそうだと思った。そりゃ正確には報道内容がわからなくても、「カナダに恩返しするような立場の奴がカナダに泥を塗った」という文脈で叩かれているのが見え見えだったから。そんなふうにホストファミリーも私に説明していたし。もし当時SNSがあったらどんなことになっていたんだろう。

こういうときに建前じゃなくて意識の奥に隠れている本音が出るって思いました。私だって外国人だからちょっと怖かったですよ。外国人はヘマできない。失言もできないって。いまでこそカナダ人は米国人よりもリベラルで人道意識が高いという評判ですけど、今でさえも実際はどうなのかなって測りかねることもあります*4ケベック州ケベックナショナリスト的な州知事*5 になったという話ですし。

gendai.ismedia.jp

誤審ならば1年経とうと金メダルをもIOCに認めさせる

でもメダルへのこだわりですげえ!って思ったのはその5年後でしたね。

当時フランスにいた私は、クリスマスを挟んだ12月をそこから飛行機で6時間ぐらいで行けるケベックのそのホストファミリー宅で過ごさせてもらうことにしたんです。ケベックって東京からだと遠いのよ。まず直行では行けないし*6。いい機会だと思った。で、ケベックに到着したその翌日早速ですね「バルセロナオリンピックで本当は金メダルもらうはずだったシンクロナイズドスイミング*7の選手が金メダルを認められたのでメダル授与セレモニーやる」って元ホストマザーに言われたのです。

「コワ?(え?)」って聞き返したの。「金メダルもらうはずだった、ってどういうこと」って。

そりゃ誤審ってのはありがちで、それ入力ミスとかじゃね?っていうのは五輪やその他大会では私だって採点競技では見ないわけではない。でも、その誤審に対して協会が抗議し続けて1年後に繰り上げで金メダルになったなんていうけったいな話はフランスにいた私は知らなかったし、何の気なしに「それって重要なの?」って言っちゃったわけです。すごく失礼な発言ですよね。「もちろん、それとっても大事よ!」と返されましたが。

 

というわけで、私はなんだかケベック人じゃないとその意義がまったくよくわからない雰囲気のセレモニーのテレビ中継を見ました。シルヴィ・フレシェット、まだアイスホッケーのスタジアムだったころのモントリオール・フォーラムにてケベック州知事やモントリオール市長から英雄として祝福された際のニュース映像です。ひええ、懐かしい!

ici.radio-canada.ca

そのいきさつを25年後にカナダ公共放送が記事でまとめたのは下記のこちら(上記の動画はこの記事では3つめのもの)。「25年前、シルヴィ・フレシェットはついに金メダルを受け取る」というタイトルね。

ici.radio-canada.ca

その……日本で当時ニュースになってたのかも私は知らないんですけど、 つまりこういうこと。

バルセロナ五輪のシンクロナイズドスイミングのソロ競技(ちなみにそのときの銅メダルは奥野史子さんだったそうです)で、フレシェットの演技後ブラジルの審判が9.7と入力したかったのに間違えて8.7と入れてしまって、すぐさま訂正したいと申し出たら米国人の審判に却下されたらしいんです。そのことが既に五輪のその試合直後に明らかになっていて(それもすごいよね。なんだそりゃって思った)、それでもフレシェット本人や家族は銀メダルでも誇らしいと言ってたようなのですが、最終的にはカナダのオリンピック協会なのかな、結局金メダルとった米国人選手と同率1位ということでフレシェットのために金メダルをIOCに認めさせました。16カ月かけて。もはや州内では政治問題だったらしく、大々的なメダル授与セレモニーには政治家も来ていました。州知事はやれ2002年にはケベックに五輪を招致するだの、市長はモントリオールに新しくできるスポーツ総合施設のプールにフレシェットの名前をつけるとか、すごいことになっていたようです(前者は実現しませんでしたが……)

冬季競技になるともっと盛り上がりがすごくなるんでしょうかね。

でもね、選手本人よりももはや周りなんですよ。実際フレシェットもメダル授与された際に「私は一介のスイマーではないということがわかった。このメダルは本当に多くのひとたちが私とともに待っていたので、そのみなさんと一緒にメダルを受け取ることができるのは自分にとって大きな誇りです」と言ってますし。

 

……きっとカナダ人はベストコンディションで勝負できない五輪には来たくないわけです。ものすごく勝負にこだわるし、五輪ともなるともはや自分だけの問題じゃないから。

でもさ、カナダに限らず、他の国の選手もそうじゃないかな?

*1:何年か前のドキュメンタリーで、シルク・ドゥ・ソレイユのオーディションで中国雑技団出身の人たちが結構採用されていたのを見たので、解雇のニュース聞いたときも「別にスタッフもカナダ人じゃなさそうだし」と思いましたね。中国人やロシア人が多いんじゃないのかな…わからないけど。

*2:ところでソウル五輪って「9月」に開催されてましたよね。だもの、なんで東京五輪は何がなんでもあの7月末からのスケジュールじゃないといかんようになったのかがまったくわからない

*3:どうもその選手は水泳選手なのに大地という名前で、そのずっと潜っているとかいうあれはバサロスタートというものだということを数週間後の母からの手紙で知らされました。で、スポーツ長官の鈴木大地さんとしては東京五輪についてどう思われますか?

*4:ましてやジャスティンが若い頃ウケ狙いで黒く塗りたくってパーティに出たというスクープは、当時を考えれば本人がいうように世間知らずでさほどの悪気すらなかったんじゃないでしょうか?

*5:この知事が就任する直前にケベックはシャルルボワでG7が開催されたんですけど、その時の前知事の雰囲気とこの知事全然イメージが違うんだ……

*6:なのでね、のちに浅田真央さんがお母さんが危篤だということでケベックシティのグランプリファイナル棄権して急遽帰国するってニュースを聞いたとき、ええ?何本飛行機乗り継ぎになるんだ、名古屋まで?って思いました。1日じゃ帰ってこられないだろうって。あの距離を考えたら胸が痛くなった。現地でも観戦するようなフィギュアスケートのファンの方々ならその距離感は常識なのかもしれませんけどね。やっと最近東京―モントリオール間直通便が出たのではなかったかと。それですらモントリオールですし

*7:今はアーティスティックスイミングって言うのね