あなたが月を指差せば、愚か者はその指を見ている

日々起きたこと、見たこと、考えたこと

ステレオタイプのプライドと偏見

ちょっと遡りますが、今年のスーパーボウルジェニファー・ロペスシャキーラのハーフタイムショー、圧巻でしたね。

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以前、マイケル・ジャクソンがハーフタイムショーのオファー(しかも無償)があったときに、それを受けることにした決め手となったのが「この舞台は他の何よりも多くの人々にリーチすることができる」という口説き文句だったそうです。

そのときの関係者談の動画(NFLFacebook投稿から)。なおショー全編見たい方はYouTubeなどで検索するとぼちぼち見られますよ。

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単独で1人のアーティストがショーをやるのは初の試みだったらしく、やるとなったら「ミケランジェロの作品のように後世に残るようなものを目指す」ポリシーのマイケルらしく手を抜くどころか、ショー全体を見た構成、コンセプトを考えてもやっぱり歴代ナンバーワンじゃないのかなと思いますね。

こうして実際1993年(インターネットもろくに普及してない時代ですよ)のマイケルによってハーフタイムショーのあり方が抜本的に変わってしまいました。マイケルがハーフタイムショーの水準を格段に上げてしまったわけ。それから大物と呼ばれるアーティストはみなオファーがあると全力投球するようになりました。

実際、海外の米軍基地でいってみれば「滅私奉公」している軍人さんたちだってスーパーボウルは楽しみで見るわけですから、やっぱりオファーを受けたら自分のベストを尽くそうとするんでしょう(それもあってマイケルが引き受けたという話も)

さて話が戻りますが、ジェニファー・ロペスシャキーラのパフォーマンスが典型的なラテンアメリカ系女性のお色気強調、だけどやるとなったら極めたものだっただけに(映画『ハスラーズ』の役作りのためにJ.Loが習得したポールダンスまで出てきて)、子どもも見るようなハーフタイムショーにふさわしいのだろうかという女性の意見もあったそうです(あといかにも女性的というステレオタイプの押しつけではないかという意味でもね)

でも、私はやっぱりマイアミでのハーフタイムショーで、彼女たちはラテンアメリカ系女性はこういうものというステレオタイプに対するプライドを持ちつつ、「期待されていること」を最高のパフォーマンスで示したと思うのです。すごいな。そりゃハーフタイムショーでみんな期待しているといったら踊りまくるお尻振りまくる彼女たちなんだろうから、それに応えてなんぼだというのはエンターテイナーとしての誇りなんだなと思いました。J.Loの履いている靴見てくださいね。

 

さて、なぜ今頃になってスーパーボウルのことを書き出したかというと、リタ・モレノなんです。今月は女性月間なんですよね。TIME誌はあらためて過去100年間のそれぞれの年を代表する女性を選んで特集したんです。1961年はリタ・モレノ

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この記事に登場する『ウエスト・サイド・ストーリー』の『America(アメリカ)』の歌詞の逸話に結構びっくりしてしまったんですね。彼女の記憶なので多少は正確性に欠けるかも知れませんが、ひどいものじゃないですか。当初の出だしの歌詞はこんな感じだったっていうんだから。

 Puerto Rico, you ugly island, island of tropic diseases. 

 さすがに物申して変えてもらった結果、こんな感じになったようで。

Puerto Rico, my heart's devotion, let it sink back in the ocean
Always the hurricanes blowing, always the population growing

 
West Side Story - America (1080p HD)

 あらためて見るとやっぱりすごいわ。かっこいい。踊りの一つ一つの動きが美しい……。

そしてリタ・モレノは現在88歳。スピルバーグ監督としてリメイクする『ウエスト・サイド・ストーリー』が今年公開になります。彼女自身もエグゼクティブ・プロデューサー(制作総指揮っていうんですか?)のひとりです。リメイク版は以前とはひと味違うものになることを期待しているとか。

AFPの取材に対し、モレノさんは「スピルバーグ監督がどんなリメーク版を作るのか、本当に楽しみです。ナーバスな気持ちもあります。旧作の『ウエスト・サイド物語』では、私たちの演技は非常にステレオタイプでした。でも時代が変化したのだから、スピルバーグ監督は型にはまった演出は避けると思います」と語った。

『ウエスト・サイド物語』女優リタ・モレノさん、スピルバーグ版も出演へ 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

で、その上記のリタ・モレノのTIME誌の記事には彼女のインタビュー動画があります。 それ見てもわかるとおり、リタ・モレノ自身はプエルトリコ生まれとはいえ、米国に移住したのはとても幼かったころなので、まったく英語になまりなんてないんですよ。

でもね、ステレオタイプなラティーナ役、スペイン語なまりを求められばまったく見事なのです(彼女曰く、ラテンアメリカスペイン語なまりといっても地域によってさまざまだそうで、使い分けてると何かのインタビューで以前読んだんですけど、ちょっと見つけられません、ごめんなさい)。それがね、私の大好きなこのシリーズ。

最新シーズンはNetflixが降りてしまったため、CBS系の有料放送PopTVで3月20日から始まるらしい。でもこれどうにかオンタイムで見たとしてもNetflixと違って字幕とかローカライズされないよね…….。

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ただし、このシリーズ登場人物の設定が実はトリッキー。キューバ系米国人の家族という設定なんですけどね。

主人公のペネロピはふくよかでノリノリの女性だけど(そのノリノリというのもそれだけじゃなく裏があるんだけど)元米軍看護師で、なんというか女性女性しているわけでもないんです。しかも軍にいたときに知り合って結婚した相手とは離婚してしまいシングルマザー。そして同居している母親役がリタ・モレノの演じるリディアで、とにかく「ステレオタイプ」なキューバ系女性。メイクやおしゃれは絶対に欠かさない、情熱的、ものすごいピンヒールをいつもはいて、ダンスが得意、敬虔なカトリック……。でも他の価値観に全く理解がないわけでもない。

というのも、ペネロピの長女(リディアにとっては孫娘)のエレナは、成績優秀で意識高い社会活動系でデモ好き(気候変動問題や環境問題にもコンシャス。これしかも1stシーズンは2017年制作なので、グレタ・トゥーンベリの活動よりも先んじていたというか、10代の少女たちの環境問題に対するムーブメントを予言していたというか、おそらく起こりつつあったものをちゃんとライターは知ってたわけですね)、さらには男女同権を謳ういわばフェミニスト、しかもLBGTQだからなのです性的志向については徐々に明らかになっていきます)。

このシリーズはホントよくできています。10代のお子さんを育てている親御さんには是非見て欲しい。Netflixでは3シーズン分、まだ見られるそうなので。

たとえば身内であっても本人がカミングアウトするまでは絶対にアウティングしてはいけないとかね、当たり前といえばそうなのですが、そういうことも私はこのドラマシリーズで学ばさせてもらいました。

それだけでなく、主人公のペネロペはやっぱりシングルマザーですべてを背負い込んでいることもあって実は鬱を抱えています。専門家に診てもらうことや自助グループの参加の重要性とかも勉強になります。

また2ndシーズンの頃にトランプが大統領になったので、早速起こったラテンアメリカ系への差別・ヘイト問題や不法滞在になってしまった人々の強制送還問題もあり、主人公一家が家族のように接している大家のボンボンの男性の抱えている依存症の一筋縄ではいかない難しさとか(ペネロピの元夫もアルコール依存症でそれが原因で離婚したという設定)

とにかくすごいです、このシリーズは。ステレオタイププライドと偏見だけを描いているのではなく、どう乗り越える、どう対処していくかを丁寧に描いている。しかもコメディですから、これ。

私はいろいろNetflix見てますけど、一つだけ推すとしたらこのドラマシリーズかなあ。

なのにNetflixが制作打ち切ったときは私もショックでしたし、ずいぶん「界隈では」話題になりましたが、すぐさまCBSが続編制作をオファーしたわけです。それほど出来が違うのよ。